はじめに
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この記事では次の3つをサクッと押さえられます。
- 保全性とは何か、その考え方のざっくり全体像
- BM/TBM/CBMという3つの保全方式の違いと使いどころ
- いちばん悩ましい「TBM(時間基準保全)の周期」をどう決めるかの実務目線の考え方
保全性とは?
まず前提として、本記事で言う「保全性」は、
設備やシステムが、長期間安定して動き続けられる“維持しやすさ”
のことを指しています。
保全性が高い設備:
- 故障が少ない
- 壊れても復旧が早い
- 点検・交換の手当てがしやすい
保全性が低い設備:
- ちょこちょこ止まる
- 原因特定に時間がかかる
- 部品調達や交換手順が面倒
というイメージです。
そのため、「保全性をどう決めるか=どの単位で、どんな方式で面倒を見るか」
という話になります。
保全性の“見る単位”をどう決めるか
保全性を考えるとき、まず決めるべきは
何単位で面倒を見るか?
です。ここではシンプルに3つに分けます。
1. 部品ごとの保全管理
モータ、エンコーダ、PC、PLC、冷却ファン…など、
部品単位で寿命や劣化を管理するやり方です。
メリット
- 個々の部品の寿命・劣化状況を細かく把握できる
- 予防保全がしやすく、起こる前に変える判断が取りやすい
- 必要な部品だけ交換するので、無駄な交換が少ない
デメリット
- 管理項目が多くなり、管理コスト・台帳の複雑さが増える
- 部品ごとの点検・交換計画の作成が面倒
- 現場にとって「やらされ感のある保全」になりがち
→ 小〜中規模設備や、致命的な部品だけ重点管理したいときに有効
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「この装置は5年ごとにオーバーホール」「このユニットは丸ごと交換」
など、装置やユニット単位で保全する考え方です。
メリット
- 見通しが良く、設備ごとの健康状態を直感的に把握しやすい
- 部品単位より計画がシンプルで、保全作業の段取りが組みやすい
- 装置別に“丸ごと更新”を前提にできるので、マネジメントには説明しやすい
デメリット
- まだ使える部品もまとめて交換することになり、コストが膨らみやすい
- 装置単位で止める必要があるため、ダウンタイムが長くなりがち
→ ラインの重要設備や、ユニット構成がはっきりしている設備に向く
3. 工程ごとの保全管理
「この工程は年1回シャットダウン保全」「このブロックはGWでまとめて保全」
のように、工程全体をひとまとめにして保全を考えるパターンです。
メリット
- 工程全体の稼働率やOEEを見ながら、戦略的に保全を組める
- 工程単位で止めるので、全体停止を避けつつ影響を限定できる
- 工程ごとに違う保全戦略(TBM中心/CBM中心など)を選べる
デメリット
- 計画が複雑になりやすく、スケジュール調整の負荷が大きい
- 工程ごとに最適化しすぎて「全体最適」を損なうリスク
→ 大規模ラインや、複数設備が絡む工程で有効
保全方式とは?BM/TBM/CBMのざっくり整理
次に、「どのタイミングで保全するか?」を決めるための考え方が
BM・TBM・CBMという3つの保全方式です。
BM(Breakdown Maintenance)故障保全
- 壊れてから直す、いわゆる事後保全です。
メリット
- 普段は何もしないので、一見コストが安い
- 交換も「壊れたところだけ」で済む
デメリット
- 止まるタイミングを選べない(よりによって繁忙期に止まるやつ)
- 不良流出や安全リスクを伴う場合は、BMは基本NG
→ 壊れても困らないところ、バックアップがあるところ限定で使う
TBM(Time-Based Maintenance)時間基準保全
- 「○年ごと」「○時間使用ごと」など、時間や回数で区切って保全するやり方です。
メリット
- 故障する前に交換できるので、突発停止が減る
- 計画保全に乗せやすく、保全工数も読みやすい
デメリット
- まだ十分使える部品を早めに交換することになり、コスト増になる
- 周期設定をミスると「頑張ってるのに止まる」or「もったいない交換」が発生
→ 寿命が読める部品・周期が決めやすい部分には向いている
CBM(Condition-Based Maintenance)状態基準保全
- 実際の状態やデータを見て、「そろそろ危ない」と判断したタイミングで保全する方式です。
メリット
- 本当に必要なタイミングだけ保全できるので、コスト効率が高い
- 異常兆候を見て前倒しできるため、“止まる前に止める”がしやすい
デメリット
- どのデータをどのように取るか?という設計に専門性が必要
- センサ・ログ・解析などの投資が必要になることも多い
→ 重要設備・高額設備・止まると致命的な設備に優先的に導入したい考え方
一番迷う「TBMの周期」をどう決めるか
ここからが今回の追加メインテーマです。
時間基準保全(TBM)を採用するときに
**いちばん現場が悩むのが「周期をどうするか?」**です。
- 短くしすぎる → コストも工数も増える(もったいない交換)
- 長くしすぎる → 結局、突発故障でラインが止まる
このバランスをどう取るか。
実務の感覚値として、次の2つの切り口を押さえておくと判断しやすくなります。
- コンデンサを含む電子機器のTBM周期
- ブレーカ類の交換タイミング
順番に見ていきます。
1. コンデンサを含む機器は「5〜8年」がひとつの目安
まず、コンデンサが入っている電子機器は、基本的に「寿命部品」です。
- PC
- PLC
- HMI(タッチパネル)
- インバータ
- 温度調節計
- サーボアンプや回転系ドライバ
- デジタル表示のある各種ユニット
このあたりは、ほぼ例外なくコンデンサが含まれています。
実務感覚のライン:8年がギリ
感覚的には、
8年がギリギリのライン。5年で壊れるのはよほど高温環境でない限りレア
というイメージです。
- 盤内温度が高い
- 24時間運転
- 周囲環境が悪い(粉じん・油・熱源の近く)
こういった条件が重なると、コンデンサの劣化は一気に進みます。
ざっくり目安
環境や重要度にもよりますが、TBMの指標としてはだいたいこんな感じです。
- 標準的な環境(常温〜40℃、常時運転):
→ 7〜8年で計画交換を検討 - 盤内が高温になりやすい・負荷が重い・トラブル時の影響が大きい:
→ 5〜6年で交換 or 一度まとめてリプレース検討
「絶対この年数で」と言い切れるものではないですが、
“コンデンサ入りの電子機器は、8年放置はさすがに怖い。
5年目くらいからTBMの候補に入れておく”
くらいの感覚でリストアップしておくと、計画保全に載せやすくなります。
2. ブレーカは「開閉回数」と「年数」で見る
次にブレーカです。
これがまた悩ましいところで、
10年・20年選手でも平然と現役のブレーカも普通にいます。
だからといって、
- 「壊れてないからOKでしょ」
- 「まあそのうち…」
で放置すると、**いざというときに動かない“飾りブレーカ”**になりかねません。
本来は「開閉回数」で判断するのが筋
メーカー仕様には、定格開閉回数が記載されています。
- ◯◯回までは性能保証
- その後は性能が徐々に落ちる前提
となっているので、本来は、
実際の開閉回数 ≒ 定格開閉回数にどのくらい近づいたか
でCBM的に見るのが理想です。
が、現場では
- 開閉回数をちゃんとカウントしていない
- 納入からの累積回数が分からない
というケースが多いのが現実です。
実務的な割り切り:10年経ったら“交換を検討ライン”
そこで、実務の落としどころとしては、
10年経ったら交換を検討する
をひとつのTBM目安にしておくのが現実的です。
- ブレーカ交換そのものの工数はそこまで重くない
- 10年を超えてくると、内部の機械部分(バネなど)もそれなりに疲れてくる
- 「いざというときに確実に落ちる」ことの価値は高い
という観点からも、
- 年次点検のタイミング
- シャットダウン保全のタイミング
に合わせて、10年選手以降のブレーカから順次更新候補に入れていくのがおすすめです。
もちろん、
- 焦げ跡
- 変色
- 操作感の違和感
- 過熱の形跡
といったCBM的な異常兆候があれば、その時点で前倒し交換がベターです。
TBMとCBMを組み合わせるのが現実解
まとめると、TBMの周期は、
- コンデンサ入りの電子機器:5〜8年でどこかに交換ラインを引く
- ブレーカ:10年経過をひとつの交換検討ラインとする
というざっくりのTBM軸を持ちつつ、
- 熱・振動・汚れ・ログ異常など、CBM的な兆候が出たら前倒しで交換
という組み合わせにしておくのが、現場感に合った現実解かなと思います。
保全方式の選び方フローチャート(考え方のイメージ)
筆者の独断と偏見ではありますが、
保全方式を選ぶときはざっくりこんなフローで考えています。
- 止まったときの影響が軽微か?
→ Yes:BMも選択肢
→ No:TBM or CBMを検討 - 寿命や劣化の指標を取りやすいか?(温度・電流・振動・ログなど)
→ Yes:CBM中心に設計
→ No:TBMの周期を決めて計画的に交換 - TBMにする場合、
・コンデンサを含む電子機器 → 5〜8年を目安にラインを引く
・ブレーカ → 10年をひとつの基準にして計画交換を検討
筆者の独断と偏見からよく使う考え方を図にまとめてみましたのでご参考ください。

まとめ
BM、TBM、CBMはそれぞれ異なる保全戦略を提供し、設備や運用状況に応じて最適な方法を選択することが重要です。BMはコスト面でのメリットがありますが、予期せぬダウンタイムのリスクがあります。TBMは故障を予防する手段として効果的ですが、コストが高くなる可能性があります。CBMは設備の状態に基づいて最適なタイミングでメンテナンスを行うため、コストと保全性のバランスが取れた方法です。
工場の保全戦略を検討する際には、これらの保全手法の違いを理解し、自社のニーズに最も適した方法を選ぶことが成功の鍵となります。



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