この記事の対象になる方
- 検査の自動化を検討しているが、仕様の決め方に迷っている方
- 「NG基準が曖昧」「部門で判断が割れる」せいで、自動化が進まない/揉めている方
- 装置メーカーとの打ち合わせで、判定条件やNG時の運用を整理して伝えたい方
装置はルールでしか判定できない
結論から言うと、検査工程が自動化できない最大の理由は、人は雰囲気で判定できるが、装置はルールでしか判定できないからです。
一つ「あるある」な基準を出しましょう。
品質基準:「製品表面に色むら、キズ、異物等なきこと」
この「総合判断」、いわゆる定性的な基準による人間の判断は、自動化では通用しません。
装置側に必要なのは、定量化された基準です。
ここが曖昧(定性的)なまま設備化すると、必ず後で破綻します。
よくある失敗パターン
1. NG基準が「おおよそ」しか決まっていない
実際の現場でも、この曖昧さが原因で詰まるケースが非常に多いです。
よくあるパターンは「現場の検査員にヒアリングした結果、これはNGと判定されました。よってNGです。」
そこから得られる情報は本当に検査すべきNGではない可能性が高いです。
仮にある程度、ヒアリング結果から定量的にできたとしましょう。
- 「だいたい何mm~何mmのキズはNG」
- 「目立つ○色、○色のものはNG」
- 「色むらが幅何mmあるものはNG」
ここで立ち直ってください。
その品質基準を決めたのは誰か?
それはきっと現場の作業員・検査員ではないはずです。その基準を作った人を説得し、その人から提案させてこそ自動化が成り立つということです。
ではどのくらい定量的にすべきか
「ガッチガチ」に決める必要があります。
例えば「キズ」なら最低でも以下を決めます。
- 長さ:何mm以上でNGか
- 幅:何mm以上でNGか
- 深さ:何mm以上でNGか
- 位置:製品面とはどこからどこのことを具体的に言うか
- 本数:1本はOK、2本以上NGなのか
- 組み合わせ:小キズ複数集積はNGか
ここまで決めて初めて、画像検査の「要求定義」になります。
曖昧なものは確実に無くす。そんな勢いで定量的にしてください。
2. OK/NGの境目に、社内で合意がない
品証・生技で認識がズレているケースです。
- 品証:「品質上は全てNG」
- 生技:「その前提で装置を作っていない」
この状態で装置を先に作ると、導入後に必ず揉めます。
装置が悪いのではなく、何を持ってこのプロジェクトをOKとするかが不明確であるのが問題です。
では何をすればよいか
検査工程では、最初に「判定責任者」を明確にすることが重要です。
通常は品証が基準責任、生技が設備成立性、製造が運用成立性を持つ形が多いです。
よって基準については「品証部門の誰に合意を取ったか」が最も重要です。
3. NG時の処置が決まっていない
これも見落とされがちですが、超重要です。
NGが出たときにどうするかを決めておかないと、導入しても運用が破綻します。
検査は「見つけること」では終わりません。見つけた後の処理設計まで含めて検査工程です。
例えば、NG判定した後に何をしますか?
- ライン停止する?
- 異常の内容はなに?
- 自動で払い出す?
- 再検査に回す?
- 作業者呼出しする?
- 何個連続でNGなら設備停止?
- 異常処置票は必要?
ここが曖昧だと、設備が動いても現場が回りません。
検査工程の自動化は「判定ロジックだけではなく、「NG処置の運用」まで作って初めて完成。
4. 前工程のバラつきを放置したまま検査だけ自動化しようとする
これもかなり多いです。
検査が不安定に見える原因が、実は前工程にあります。
例:
- ワーク姿勢が毎回少し違う
- 位置決め基準がない
- 表面に油が乗る量がばらつく
- 照明反射が変わる
- 温度で寸法が動く
- 治具が摩耗して基準がズレる
この状態で高性能カメラを入れても、誤判定が増えるだけです。
対策
検査工程の前に、まず工程条件を安定化します。
- 位置決め治具の見直し
- 外乱照明の固定化(角度、照度、遮光)
- 清掃条件の統一
- 搬送姿勢の安定化
- ワーク基準面の明確化
- 温調・環境条件の管理 等
検査設備は「異常を見つける装置」であって、工程のバラつきを魔法のように吸収する装置ではありません。
検査工程を自動化するための正しいステップ
ここからは、実際に進める順番を整理します。

この順番を守るだけで、かなり失敗率が下がります。
ステップ1:まず「何をNGにしたいのか」をKPIで言語化する
最初にやるべきはここです。設備選定ではありません。
「検査対象」を細かく分解します。
- 外観(キズ、打痕、汚れ、変色、欠け)
- 寸法(長さ、径、高さ、段差)
- 組付け状態(有無、向き、挿入深さ、浮き)
- 表示(刻印、ラベル、印字)
そのうえで、1項目ずつ判定条件を決めます。
ポイント
「不良名」だけでは不十分です。
必ず「測れる言葉」で表現します。
- 悪い例:「キズ」
- 良い例:「A面中央から±20mm範囲内に、幅1.0mm×長さ1.5mm以上の線状欠陥がある場合NG」
この粒度が必要です。
ステップ2:OK品・NG品のサンプルを集める
自動化の成否は、サンプルの質で決まります。
- 良品(バラつき含む)
- 典型NG
- 境界品(人でも迷うもの)
- 季節差・設備差・材料ロット差を含むもの
ここで「境界品」を集めないと、立上げで苦労します。
なぜなら現場で一番揉めるのは、いつも境界だからです。
実務で大事なこと
- サンプルにラベルを付ける(誰判定か、いつ、どのラインか)
- 判定履歴を残す(品証承認済みか)
- 過検知寄りに設定し、最終は人の判断という運用を考える
- 後で再現できるように管理する
ステップ3:判定基準を「数値」と「運用」に分けて決める
ここが最重要です。時間を一番かけるべき部分です。
サイズ・深さ・色・高さは判定基準の中心になります。
さらに、それに加えて「運用条件」も定義します。
数値条件(例)
- サイズ:長さ1.0mm以上NG
- 深さ:段差0.05mm以上NG
- 色差:ΔE 2.5以上NG
- 高さ:浮き0.3mm以上NG
- 位置:基準穴から±1.0mm外れNG
運用条件(例)
- 1回目NGなら再撮像1回
- 再判定でもNGなら保留排出
- 同一品番で連続3個NGなら設備停止
- 停止時は班長呼出し+品証連絡
- 復帰は確認者サイン後
この「数値」と「運用」を分けて作ると、現場で運用しやすくなります。
ステップ4:検査方式を選ぶ
ここでようやく設備方式を選びます。
- 画像検査(2Dカメラ)
- 3D検査(レーザー変位、3Dカメラ)
- 接触検査(プローブ、ゲージ)
- 電気検査(導通、抵抗、耐圧)
- 機能検査(動作、圧力、流量、トルク)
大事なのは、方式を先に決めないことです。
最初に「AIカメラを入れたい」が先行すると失敗しやすいです。
検査方式は、決めた判定基準を満たせるものを選ぶだけです。
機器選定は主役ではありません。主役は「検査仕様の定義」です。
ステップ5:ライン条件(タクト・設置・保全性)を詰める
検査ロジックができても、ラインに乗らないと意味がありません。
確認すべき項目:
- タクト内に処理が収まるか
- 設置スペースはあるか
- 品番切替は何分でできるか
- 清掃・点検しやすいか
- レンズ・センサ交換は現場で可能か
- 誤判定時の手直し動線はあるか
- トレーサビリティ(画像保存、履歴保存)は必要か
特に保全性は重要です。
「高性能だけど調整できる人がいない設備」は、数か月で現場から嫌われます。
ステップ6:試作・評価(PoC)で成立性を確認する
いきなり本番設備を作るのではなく、まず小さく検証します。
- サンプルで検出率を評価
- 誤判定率(過検出・見逃し)を評価
- 照明条件を変えて評価
- タクトを見積もる
- 品番差の影響を確認
ここで見るべきは「100点」ではありません。
見るべきは、どの条件で弱くなるかです。
- 反射が強いと弱い
- 汚れがあると誤判定増える
- ワーク位置ズレに弱い
- 色違い品番に弱い
弱点が分かれば、治具・照明・運用で対策できます。
ステップ7:導入後のルールを決める(ここを決めないと崩れる)
導入後に必要なのは「誰が何を管理するか」です。
- しきい値変更の権限者
- マスタ更新のルール
- 品番追加時の評価手順
- 週次点検項目(清掃、照度確認、治具摩耗)
- 誤判定発生時の切り分け方法
- 品証へのエスカレーションルール
ここがないと、現場で勝手にしきい値を緩める→流出、が起こります。
逆に厳しすぎる設定のまま誰も触れない→過検出多発で停止、も起こります。
導入までに最も時間をかけるべき部分
結論です。
最も時間をかけるべきは「NG基準の定義」と「境界品の合意」です。
設備選定、メーカー比較、カメラ性能、AIの種類…。
もちろん大事ですが、ここに時間をかけすぎる前に、まず以下を固めるべきです。
- 何を不良とするか
- どこまでをOKとするか
- 境界は誰が決めるか
- NG後にどう処置するか
この4点が固まっていないと、どんな高価な設備でも安定しません。
「自動化できない」のではなく、「自動化できる仕様になっていない」ことがほとんどです。
この見方に変えるだけで、進め方が一気に現実的になります。
現場で使える実践チェックリスト

導入前に、最低限これだけは確認しておくと失敗しにくいです。
判定基準
- NG条件が数値で書けている
- サイズ・深さ・色・高さなど、評価軸が明確
- 境界品の扱いが決まっている
- 品証承認済みの基準書がある
サンプル
- 良品・NG品・境界品が揃っている
- 季節差・ロット差のサンプルがある
- 現品と写真と判定結果が紐づいている
運用
- NG時の処置フローが決まっている
- 連続NG時の停止条件がある
- 再検査のルールがある
- しきい値変更の権限が決まっている
設備・保全
- タクトに入る見込みがある
- 清掃・点検しやすい構造
- 交換部品・消耗品の管理ができる
- 故障時の手動運転・暫定運用が決まっている
まとめ
検査工程の自動化がうまくいかない理由は、設備の問題というより、検査仕様と運用設計が曖昧なまま進んでしまうことにあります。
今回のポイントを整理すると、以下です。
- NG基準は「おおよそ」ではなく、サイズ・深さ・色・高さなどで明確にする
- 品証・生技・製造で、OK/NGの境界を先に合意する
- NG時の処置(停止・排出・再検査)まで決める
- 前工程のバラつきを減らしてから検査を自動化する
- 一番時間をかけるべきは「NG基準の定義」と「境界品の合意」
検査の自動化は、カメラやAIを入れれば終わるテーマではありません。
でも逆に言えば、仕様の作り方を押さえれば、かなりの確率で前に進めます。
もしこれから検査工程の自動化を進めるなら、まずは設備の選定会議ではなく、
「どこからNGか」を決める会議から始めてみてください。そこが、成功のスタート地点です😊
本記事は学習目的の情報提供です。実際の電気工事・設計・配線・機器選定・部材選定・改造は、法令・社内基準に従い、有資格者および責任者の管理下で実施してください。現場条件により最適解は変わるため、必ずメーカー仕様書・設計基準・安全規程・JISを確認のうえ判断してください。


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